東京農業大学「食と農」の博物館 世田谷区

東京農大から少し先、馬事公苑の手前に「食と農」の博物館がある。入場料は無料で、館内にはレストランもある。吹き抜けで天井がすごく高く、近所の奥さま方のアシスト自転車がたくさん並んでいた。

この記事は長いので、先に基本情報を書いておく。

「食と農」の博物館

「食と農」の博物館 | 東京農業大学
東京農業大学「食と農」の博物館サイトです。「食と農」に関する様々な展示をはじめ、講演会、体験講座、イベントなどの活動を展開しています。ご利用案内、展示案内などの情報をご覧いただけます。

地図などはこちら。

東京農業大学「食と農」の博物館 · 〒158-0098 東京都世田谷区上用賀2丁目4−28
★★★★☆ · 博物館

なぜか博物館の前に大きなニワトリの像がある。

東京農大は何かとご縁がある。勤めていた会社が農大といろいろな関係があり、また、そこで知り合った高校の先輩が、農大の偉い先生だった。時々、体をほぐしてもらっていた先生は農大の卒業生だった。

ずいぶん昔、明大を辞めた栗本慎一郎先生が、一時東京農大にいらしたのだが、一度研究室に訪ねていったことがある。残念ながらタイミングが悪くてお会いできなかったが。

入口はこんなガラス張りだ。

入るとすぐにクリオネがお出迎えだ。羽がついていて泳いでいる。オホーツクの海にいる貝類なのだそうだ。

正面にトラクターが3台並んでいる。

トラクターの後ろに木の標本があった。見ると木曽ひのきがあった。採集地が南木曽町読書柿其(なぎそまちよみかきかきぞれ)とあった。私は数か月だが南木曽町に住んで山林の仕事をしていたことがある。行ったことのある現場だ。

直径100センチで樹齢300年だそうだ。ヒノキは杉に比べて太くならず樹齢も杉ほど長くならないと南木曽町に住んでいたときに聞いた。

木曽は江戸時代、幕府に厳しく管理されていたので、直径2メートルぐらいの大木が残っている。しかし、500~600年が寿命で、あまり太くなると中に洞(うろ)ができてしまうのだとか。

1Fには特別展示のスペースが2つある。私が行ったときは、『小さい隣人「マウスという名の鼠」展』と、『みどりと暮らしの舞台演出家農大ランドスケープデザインNOW&FUTURE』が開催中であった。

特別展示はカメラで撮ってよいとは書かれていなかったので遠慮した。

印象に残ったのはラットだ。ラットは実験動物としてよく知られている。マウスとラットが出てくるが似たようなものだろうと思っていた。剥製が展示してあったが、でかい。こんなにでかいのかと思った。説明を見ると、ドブネズミから品種改良されたのだそうだ。なるほど。

2Fに上がると常設展だ。最初はニワトリの剥製の展示があった。「日本の家禽を集めようではないか」とコレクションしているそうだ。現在117体。

私はニワトリにはあまり興味がないのだが、壁に貼ってあった焼き鳥の呼び方には興味津々だ。時々、お店で「これはどこの部位なの?」と聞いているくらいだ。書き写しておこう。

名称部位と特徴
モモ・ムネ(正肉)モモは足の付け根から先の部分で、ムネはもちろん胸肉。最も人気のある焼鳥の定番で王道。肉汁好きはモモ。サッパリ好きはムネで。
ネギマモモやムネの正肉と一口大に切った長葱を交互に串に刺したもので、ハサミ、鳥ネギとも呼ばれる。元来マグロと葱を串に刺して煮たり焼いたりした食べ物のことで、マグロの代わりに鶏肉を使ったもの。
アカモモ肉の内側にほんの一部分だけある、真っ赤な肉質の部位。柔らかく淡白で、上品な味わいが口中に広がる。
オビモモ肉の中でも一番骨に近い部位。水分量が多く、モチモチとした味わいが特徴。
スジモモ肉の筋の部分で、ゼラチン質でできている。モモ肉との調和がよく滋味豊か。
ボンジリ尾骨周囲の肉で尾羽が生えている部分。とても脂が乗っていてジューシーな味わいで、かつむっちりとして食べ応えがある部位。
油ツボ(アブラツボ)ボンジリの付け根部分。ボンジリよりも歯ごたえがあり、味も濃厚。
羽子板(ハゴイタ)尾の付け根の近くの尾羽を動かす筋肉。脂肪が少なく、さっぱりとした味わい。
ナンコツ胸骨の先端のヤゲンナンコツ(カッパ)脛骨と大腿骨のひざナンコツ(ゲンコツ)がある。コリコリとした独特の食感が楽しめる。ひざナンコツ(ゲンコツ)は唐揚げに多く使われる。
ハラミ横隔膜の背中側の部位で、柔らかさが最大のポイント。
ハツ鶏の心臓。モチモチ・プリッとした弾力のある歯ごたえが特徴。
ハツ元(ハツモト)ハツの上部につながる大動脈。味や食感、脂の乗り具合はハツとは全く別もの。カン(血管)、ツナギ、赤ヒモ、心残りなどとも呼ばれる。
丸ハツ(マルハツ)心臓の内膜を裏返してそのまま焼いたもの。ハツより柔らかくあぶらが乗っている。形は円錐状である。
レバー肝臓。ねっとり・とろりとした食感で、ビタミンA、C、E、B2やグルタチオンなど、栄養のかたまり。
白レバー夏場に飼料を過度に与えた鶏から取れる。レバー特有の臭みが全くなく、なめらかで濃厚な口あたりは、まるで和製フォアグラである。夏場以外の時期では、取れる確率が40羽で1羽出るか出ないかであるといわれている。
砂肝(スナギモ)鶏が持つ2つの胃袋のうち、筋胃(砂嚢)という胃袋の外側についている、2つの盛り上がった筋肉の部分。コリコリ・シャキシャキとした歯ごたえが特徴。スナズリとも呼ばれる。
銀皮(ギンピ)砂肝を包む薄皮で、ズリカベとも呼ばれる。コリコリとした食感。
エンガワ砂肝の壁の部分だけ集めて串打ちしたもの。砂肝より少し固めで、独特のコリコリ感と旨味が特徴。
ベラ砂肝の下にある弁の部分で、プリッとした弾力感が特徴。
フンドシ砂肝からぶら下がり、消化する際に餌を弾く器官。柔らかく牛タンを連想させる。
ガツ砂肝に近い部分で、コリッとした食感が楽しめる。脂ののりもよく旨味もたっぷり。
ハシ砂肝の一番端っこの部分だから「はし」砂肝の醍醐味を凝縮した味が楽しめる。
背肝(セギモ)腎臓。レバーに似た味わいだが、食感は異なり、ザラリとした舌触りが特徴。取るのに手間のかかる割には少ししか取れない希少な部位。
小豆(アズキ)脾臓。目肝(メギモ)とも呼ばれる。中はふわりと柔らか。
皮(カワ)皮の中でも比較的厚く、旨味のある首の部分を使うことが多い。パリッと焼き上げた表面とゼラチン質の食感とのバランスが絶妙。
ハラ皮(ハラカワ)卵を温めるおなかの部分の皮。皮の中で最も厚く、たっぷりと脂がのっている。
ペタボンジリと背中を繋いでいる皮の厚い部分。首の皮より脂がのってクリーミー。
手羽(テバ)鶏の翼部分で、手羽元、手羽中、手羽先の3つの部位に分かれる。ソフトで弾力があり、凝縮された肉の旨味と皮のパリパリ感が口中に広がる。
チョウチン卵が殻と白身に覆われる前の卵管と卵胞を取りだして焼き上げたもの。丸ごと噛むと黄身がはじけて、卵の旨さを凝縮した味わいが口中に広がる。
ササミ胸の内側についている筋肉で上質の部位。脂肪分が少なくさっぱりしていて、柔らかい。肉本来の味が楽しめて高タンパク低カロリーがうれしい。
ツクネ首の部分をすり身にして、豚肉やネギ、大葉などの野菜のみじん切りを合わせ、卵や片栗粉を混ぜて団子状にしたもの。食する際は甘いタレや卵黄をからめるのもお薦め。店によって合わせる材料が異なり個性がでる一串。
セセリ首の部分でソロバン、ネックとも呼ばれる。よく動く部位であることから身が締まり、歯ごたえがよく、適度な脂ののり具合で噛めば噛むほど肉汁が溢れる。味わいのある部位で非常に旨い。1羽で少ししか取れない希少な部位。
オタフク胸腺。表面は脂肪分でフワッととろけ、中身は歯ごたえがあり、ふたつの異なる食感が楽しめる。
フリソデ手羽元と胸肉の間の肩肉。手羽より脂肪分は少ないが肉汁は多く上品な味わい。
サエズリ気管。食道。管状で弾力のある食感が特徴。くせはなく食べやすい。
カンムリトサカをカリカリに焼いたもの。ゼラチン質でコラーゲンが豊富。表面はカリッ、中はトロリ。
ソリ(ソリレス)骨盤の内側、腰骨の付け根の窪みにあるピンポン玉大の筋肉。独特の弾力と風味が特徴。ソリレスとは「愚か者はそれを残す」という意味のフランス語。知らないとどんな旨いものでも捨ててしまう、ということらしい。知らないということは恐ろしい。
白子(シラコ)精巣(睾丸)。表面の香ばしさと中のクリームのように濃厚な風味との対比が味わえる。

その先は、農大らしく醸造学科の卒業生が醸す日本酒を展示してあった。こちらは興味が大いにある。壁一面に4合ビンが並んでいる。

私が通っていた大学にも農学部があったが、醸造学科はなかった。醸造学科のある農学部は確か少なかったはずだ。東大は坂口謹一郎以来の伝統があるが、他は広島大学など限られた大学にしかなかったと記憶している。

八海山とか出羽桜とか有名でおいしい日本酒の酒蔵の社長さんが卒業生なんだね。その他に木曽の七笑もあった。出羽桜と七笑はパンフレットをもらえる。

七笑は木曽福島の酒だ。南木曽に住んでいた数か月よく飲んだ。八海山は、昔はプレミアムがついてとても高いお酒だったが、最近は生産量が増えたのか?買いやすくなった。おいしいのは変わらない。

その前には、杉玉が展示されていた。杉玉は、造り酒屋や気のきいた酒屋さんに秋になるとぶら下がる。整った球形なので一体どうやってつくっているのだろう?と思っていた。

このように中に籠を入れて、そこに杉の枝を挿していくんだね。そして最後にハサミで切って玉の形にしていくんだろう。

その先に、なにやらクラシックな酒びんがあった。スヰートピーと書いてあり、ウイスキーのような色をしていたが、日本酒の古酒なのだそうだ。浅草の神谷バーを思い出してしまうデザインだ。

「スヰートピー」の解説

和歌山県伊都郡かつらぎ町、帯庄酒造合資会社(元禄年間創業、現在廃業)の古い蔵から発見された酒。現存する熟成古酒では最も古く、昭和元年の酒とされる。

酒の色は濃い赤褐色で澄んでいる。蔵内常温で熟成され、酒質は灘型。昭和2年に当時の雑誌「キング」に紹介された。

ラベルの文字はほとんど英語で輸出向きも意識した商品と思われる。

祝い事に使う角樽。南木曽町にいた時、数日だが木工所で角樽の部品をつくる作業をしたことがあった。角樽に巻く竹も切りにいった。最後に漆を塗って仕上げる。なかなか手間がかかるものだ。

振りかえると、企画展で「東京農業大學全學應援團」が展示中だ。何しろ農大は大根踊りが有名だ。団員の生活は、ずーっと昔、中学生か高校生のころNHK教育テレビでやっていた「若い広場」で見た記憶がある。花の応援団というマンガが流行っていた頃だ。

これも常設展でないので、ポスターだけ撮らせてもらった。

近くの階段を降りると、隣のグラスハウス(温室)バイオリウムへの入口だ。

中は暖かい。植物だけの温室とは違い、キツネザルが飼育されているので、少しけものくさい。なかなかカワイイのである。

その下には食事中のケヅメリクガメもいた。

中はこんな感じだ。グラスハウスの半分くらいが公開されているようだ。

一番心ひかれたのはウツボカズラ。食虫植物だ。子供の頃、植物図鑑を読んでいて、あやしくて魅力的だと思っていた。

においで虫をこの壺に誘い込み、一度入ったが最後、すべって出られずだんだん溶かされて養分を吸われてしまうのだ。

バイオリウムからまた博物館に戻り、入口へ。過去の展示案内は、立派なパンフレットになって無料でもらえる。現在展示中のものもある。親切だ。

私は農学部のすぐそばに住んでいたが、生協の食堂を利用するくらいだった。住んでいたアパートの隣の人もその隣の人も農学部の学生だったが、話をすることはあっても、何しろ私が興味を持っていなかったので、農学部についての話はしたことがなかった。実にもったいなかった。

農学部は面白い。今からもう一度学生に戻してくれるなら、第一志望は農学部だ。

コメント

タイトルとURLをコピーしました